『動物の謝肉祭 』(どうぶつのしゃにくさい、Le carnaval des animaux )は、フランス の作曲家 カミーユ・サン=サーンス の作曲した組曲 である。『動物学的大幻想曲 』(Grande fantaisie zoologique )の副題を持つ。
解説
1880年のサン=サーンス
全部で14曲からなり、元来は室内楽 編成用として作曲されたものである。1886年 にチェリスト、シャルル・ルブーク (英語版 ) の催すプライヴェートな夜会のために作曲された。初演はマルディグラ の日である同年3月9日 、オーストリア のクルディム(Chrudim )にて、サン=サーンス、ルイ・ディエメ のピアノ、ルブークのチェロ、ポール・タファネル のフルートなどにより非公開で行われた。その後、同年内に2度非公開で演奏されたが、他の作曲家の楽曲をパロディ にして風刺 的に用いていること、プライヴェートな演奏目的で作曲されたいきさつなどの理由により、以降サン=サーンスは自身が死去するまで本作の出版・演奏を禁じた。ただし純然としたオリジナルである「白鳥」だけは生前に出版していた。
現在では、プロコフィエフ の『ピーターと狼 』やブリテン の『青少年のための管弦楽入門 』と並ぶ、子供向け管弦楽 曲の代表的作品としても人気がある。時に自由な物語を添え、語り付きで演奏することがある。
楽器編成
オーケストラ で演奏する場合と、オリジナルの室内楽 として演奏する場合がある。前者では弦楽器 は各パートに複数置かれる(ただし「白鳥」のみオーケストラ版の場合でもチェロはソロである)。
各曲
第1曲「序奏と獅子王の行進曲」(Introduction et marche royale du lion )
Andante maestoso - Allegro non troppo - piu allegro 4/4拍子 ハ長調 - イ短調 (ドリア旋法 )
ピアノの耳をつんざくようなトレモロ に始まる。ついで、勇壮な「行進」が弦楽器 のユニゾン で奏される。全71小節。
ピアノ2、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス
第2曲「雌鶏と雄鶏」(Poules et coqs )
Allegro moderato 4/4拍子 ハ長調
ピアノと弦楽器が鶏の鳴き声を模倣しあう。全35小節。
クラリネット、ピアノ2、ヴァイオリン2、ヴィオラ
第3曲「騾馬」(Hémiones )
presto furioso 4/4拍子 ハ短調
アジアロバ であろうと言われる。ピアノの上り下りする強奏の音階。全28小節。
ピアノ2
第4曲「亀」(Tortues )
Andante maestoso 4/4拍子 変ロ長調
弦楽器がのそのそとユニゾンでオッフェンバック の『天国と地獄 』の旋律をわざとゆっくり奏する。全22小節。
ピアノ、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス
第5曲「象」(L'éléphant )
Allegretto pomposo 3/8拍子 変ホ長調
コントラバスがもそもそと軽やかにワルツ を奏する。ベルリオーズ の『ファウストの劫罰 』から「妖精のワルツ」、メンデルスゾーン の『夏の夜の夢 』から「スケルツォ」が重低音で組み入れられている。全52小節。
コントラバス、ピアノ
第6曲「カンガルー」(Kangourous )
Moderato 4/4拍子、3/4拍子 ハ短調
装飾の付いた和音が上下して、飛び回るカンガルー を描写する。全20小節。
ピアノ2
第7曲「水族館」(Aquarium )
自筆譜の「水族館」 視聴
Andantino 4/4拍子 イ短調
グラスハーモニカの入った幻想的なメロディーに、分散和音 のピアノ伴奏が添えられている。全39小節。
フルート、グラスハーモニカ、ピアノ2、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ
第8曲「耳の長い登場人物」(Personnages à longues oreilles )
Tempo ad lib 3/4拍子 イ短調
おそらくは驢馬 、アジアロバでない驢馬。のどかな驢馬の鳴き声をヴァイオリンが模倣する。サン=サーンスの音楽に嫌味な評価を下していた音楽評論家 への皮肉と言われている。全26小節。
ヴァイオリン2
第9曲「森の奥のカッコウ」(Le coucou au fond des bois )
Andante 3/4拍子 嬰ハ短調
クラリネットがカッコウの鳴き声を模倣する。全43小節。ピアノ協奏曲第2番 の第3楽章の一部から和声進行がそのまま引用される。
クラリネット、ピアノ2
第10曲「大きな鳥籠」(Volière )
Moderato grazioso 3/4拍子 ヘ長調
弦楽器のトレモロによる伴奏の上を、フルートが軽やかに飛び回る。全31小節。
フルート、ピアノ2、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス
第11曲「ピアニスト」(Pianistes )
Allegro moderato 4/4拍子 ハ長調 - 変ニ長調 - ニ長調 - 変ホ長調 - ハ長調
わざとへたくそに、ピアノの練習曲 (それも音階を単純に繰り返すだけの指使い訓練に近いもの)を弾く。終りごろ近くから弦も加わる。最後は明確な区切りもなく、そのまま次の曲へ入る。全30小節。
ピアノ2、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス
第12曲「化石」(Fossiles )
自筆譜の「化石」、翼竜 の化石が描かれている。
Allegro ridicolo 2/2拍子 ト短調
自作『死の舞踏 』の「骸骨の踊り」の旋律、ロッシーニ の『セビリアの理髪師 』から「ロジーナのアリア」(Una voce poco fa )、その他「大事なタバコ」(J'ai du bon tabac )、「きらきら星 」(Ah vous dirais-je maman )、「月の光に 」(Au clair de la lune )、「シリアへ旅立ちながら 」(En partant pour la Syrie )などのフランス民謡が組み合わされる。全74小節。
ピアノ2、クラリネット、シロフォン、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス
第13曲「白鳥」(Le cygne )
ミハイル・フォーキン
Andantino grazioso 6/4拍子 ト長調
全14曲中最も有名な曲で、チェロ独奏曲として有名な曲。生前の公開演奏と楽譜出版が許された唯一の曲でもある。全28小節。バレエ 『瀕死の白鳥 』は、ミハイル・フォーキン がこの曲に振付を施した作品である。
チェロ、ピアノ2
本来はピアノ2台を含む編成であるが、単独出版は第2ピアノが割愛されたチェロとピアノ1台の形で発表されており、この編成で演奏されることも多い。
第14曲「終曲」(Final )
Molto allegro 4/4拍子 ハ長調
カーテンコール。軽快な主題 に乗せて、それまでの各曲の旋律が登場する。全91小節。
ピッコロ、クラリネット、グラスハーモニカ、シロフォン、ピアノ2、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス
アレンジ・演奏
関連作品
1922年のオリジナル楽譜の表紙、サン=サーンスが死去するまで本作の出版・演奏を禁じたため、これが全曲収録された最初の楽譜である。
脚注
外部リンク